稀少地名漢字レポ 1:夕𣷓港:山口県萩市
2016年1月11日
この度、学生時代が全部黒歴史な僕は、成人式から逃げるためにちょっと旅に出た。
普段は福岡県内をウロウロしている僕だが、今回はちょっと遠目に足を伸ばして、本州に上陸してみた。
今回は「𣷓(=さんずい+和)」という漢字を求めて行く。
この漢字は「なぎ」と読む国字で、「稀少地名漢字リスト」によると、
の2ヶ所の地名だけでしか使われていない、とても珍しい漢字だ。地名以外には名字としての用例、インターネット上でのハンドルネームとしての用例が見当たる。
金欠につき和歌山のは遠すぎて無理なので、山口県のを目指すことにする。
目指すは、
1月11日 15時5分ごろ
朝に家を出たが、目指す先は中心地から外れた所。
さらにこの往路の途中で腹を下していれば、最寄りの「越ヶ浜駅」に着く頃にはすでに陽が傾きかけているありさまである。
越ヶ浜駅のプラットフォームにつけられた古さびた「名所案内」の看板。これもなかなかよい。
この越ヶ浜駅で電車を降り、階段を下るとすぐに国道191号が通っている。これを向かって右(地図上では北)に、20分ほど歩く。なかなかしんどいが歩く。
20分ほど歩くとこんな具合の、港の風景が見えてくる。いい港をしてらっしゃる。これが「夕𣷓港」である。
このあたりで、珍しい字「𣷓」を見ることが出来そうだ。
港へ向かう。ここからまた5分ほど歩く。
(この写真が、往路ではなく復路に撮ったのはナイショ)
港の施設をちょろっと覗いてみると、
1月11日 15時35分ごろ
オッ!
港の名前が記されている!
が、「𣷓」の字がご覧のとおりひらがなにされてしまっている。
JISは第1水準~第4水準にそれぞれ2000~3000の漢字を規定しているが、一般的な市販のフォントはだいたい第2水準までしか対応していないのである。そして「𣷓」は第4水準に当てられた漢字。
要はこの丸ゴシック体だと「𣷓」をパソコンで表示できなかったからこうなる。稀少地名漢字の使われた場所に生まれる独特な悩み。こういうのも良い。
良いけども!
しかしやっぱり「𣷓」が使われている看板を見たい!
もうちょっと周りを探索する。うろうろする。
すると、
1月11日 15時55分ごろ
地図の描かれた看板!
地図はだいたいチャンス。ロコツに地名というものが絡んでくるのだ。大抵こういう看板には・・・
書いてありますゥゥゥゥゥ!!!!!!
発見。やったね。紛れも無い「𣷓」。
この「さんずい」と「和」を無理矢理ひっつけてみた感じが、看板製作者の苦労を感じさせて気分がニッチな高揚をもたらす。
もうちょっとウロウロしてみようかなと思ったが、ここで事前情報を思い出した。
この旅の数日前、インターネットで「夕𣷓港」の検索をしていると、「夕𣷓」の名を冠した灯台が付近にあるらしいことがわかった。灯台の正確な位置まではわからなかったが、ここは「現地に赴けば見つかるだろう」とあまり気負わず。
夕𣷓港。
写真中央に、灯台が見える。赤い灯台と白い灯台。
僕はこの時点で50分以上歩き続けており、運動不足が祟って軽く疲憊している。
この状態で白い灯台まで行くのは無理だ。というか、気力がない。この港湾をぐるーっとまた数十分掛けて回って、あんなところまで行く膂力はさすがにもう持ち合わせていなかった。
一方、赤い灯台は近い。ここから数分歩けば容易にたどり着ける。
単純な男なのです。近い方の灯台だけ見ようと妥協を決め込みます。
1月11日 16時10分ごろ
堤防から陸のほうを見る。この港も堤防も昔からあるのだろうから、耐久性はバッチリなんだろうけれども、存外堤防は細く見え、すぐそこに海面があり、なんだか非常に心細い。無意識に屁っ放り腰。
そんでもって今は1月。海風が冷たい。
屁っ放り腰のまま灯台に近寄ると、
イエアアア
確かに「夕𣷓」の文字があった!書いてあんじゃんよ~!
・・・「萩港夕𣷓」?
これは「夕𣷓」という字名が近くに嘗て乃至現在に存在し、この港名の由来になったということなのか?
いや、しかし「萩港」?さっきの港には「夕なぎ港」と書いてあったじゃないか? おおお??どういうことだ??
家に帰ってからしばし思索に耽ったが・・・結局よくわかんないや。
3/11追記
僕自身が「港」というシステムを全く知りませんでした。
大きな港というのは、その中にいくつかの小さな港を設けてそれぞれがそれぞれの役割を果たしているのですね...
調べた所、「萩港」の中に「夕𣷓港」という漁港があり、この漁港の周辺一帯を「夕𣷓地区」と呼んでいるらしいです。
とりあえずこの赤い灯台で「𣷓」を見られるというのは確認できた。
この赤い灯台が「東防波堤灯台」ということは、さきほどの夕𣷓港の写真に写っていた白い灯台はたぶん「西防波堤灯台」ということなのだろう。そしてたぶん、あの白い灯台でも、「𣷓」の字は見られるのだろう。
さて、堤防から戻りまた夕𣷓港付近を漫ろ歩いてみる。かなり疲れている。
1月11日 16時50分ごろ
電柱をふと見たら「夕凪」と表記されていた。「夕𣷓」ではなく、「夕凪」。
電柱にはよく地名が刻まれている。そしてその刻まれた地名は大方古いものなのだ。やっはりこのあたりは「夕𣷓」と名のついた地区なのだろう。たぶんそうなんだろう。
そしてこういう電柱に書かれた地名は、JIS第2水準以上にあるような難しい字を、JIS第1水準にあるような簡単な字に置き換えていることがたまにある。福岡県北九州市の「天籟寺(てんらいじ)」を訪れた時には電柱に「天頼寺」の表記を見つけた。佐賀県唐津市の「箞木(うつぼぎ)」を訪れた時には電柱に「巻木」の表記を見つけた。おそらくこの「夕凪」も同じ類の書き換えを食らったのだろう。
あとはもう見つからなかった。なによりも僕が草臥れてしまった。足裏がとても痛い。情けない男である。
17時、越ヶ浜駅へと歩いて戻り、電車を待つ。
1時間待った。待っている間に陽が沈んで闇が訪れた。寒くて怖い。
かなり心細かったが、他の利用者さんが途中で現れたのでほっとした。
19時、萩市の某ホテルにチェックイン。
ふかふかのベッドでとっとと眠りこけた。
ひらがなで「なぎ」、無理やり部品をひっつけて「𣷓」、書き換えて「凪」と、3つも苦労のにじむ表記を見ることが出来た。おもしろいなぁ(語彙不足)。
インターネット上では「夕和港」という表記が多いようです。「夕𣷓」という表記をしているところもありますが、概ね「𣷓」の字を画像化して機種依存性を取り除いて記述してあるので、「𣷓」の字で検索を掛けるのは効果が薄く見えます。